『罪の声』(講談社)、『騙し絵の牙』(KADOKAWA)、『存在のすべてを』(朝日新聞出版)などで多くの読者を魅了してきた、現代を代表する社会派作家・塩田武士さん。その最新長篇『踊りつかれて』が、5月27日に発売されます。

 本作のテーマは「週刊誌の罪×SNSの罰」。週刊文春で連載された当時から話題沸騰で、「息苦しいほどの“正しさ”のその先に待ち受ける〈赦されない〉社会」を描き切った問題作です。

 なぜ、このモチーフで本作『踊りつかれて』を執筆するに至ったのか? 塩田さんご自身にその動機と経緯を語ってもらいました。

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踊りつかれて

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週刊文春のオファーにガッツポーズ

 2018年に〈誤報〉をテーマにした『歪んだ波紋』(講談社)を出版したのですが、読者からの反応が「面白い」「面白くない」に留まっていて、SNSやジャーナリズムという「情報」について、それをどう捉えるのかという視点での感想があまり見受けられませんでした。

 私は小説にとって重要な要素は、テーマが第一で、次にストーリー、キャラクターだと思っています。なので、現代における最大のテーマである「情報」について読者に興味を持ってもらえなかったことがショックでした。

 そうした自分の中での“宿題”のようなものと、2010年代の半ば頃からSNS社会にものすごく息苦しさを覚えていたこともあり、SNSや報道に関するメモ、特に「誹謗中傷」について思うところを書き溜めるようにしていたんです。

 しかも、「このテーマで作品を書くなら、週刊文春で連載できたら面白いな」と、まだオファーもされていないのに、自分のなかで勝手に決めていました。なぜなら、2016年以降、週刊文春の存在感が明らかに変わっていったからです。政治から芸能まで、週刊文春の報道で世の中が動くようになっていった。私が作品を書くときに心がけているのは、「中心に飛び込む」ことなので、情報をテーマにした作品であるからには、メディアの中心となっている週刊文春しか発表の舞台は考えられませんでした。

 そうやって一人で構想を温めていたところ、ほどなくして、知り合いの文藝春秋の編集者から「週刊文春で連載しませんか」とお話をいただいたんです。待ってましたとばかりにガッツポーズしたものの、週刊誌批判を含んだ内容にするつもりだったので、ゴーサインが出るかわからない。そのときには、「週刊文春ならではの連載にしますね」と言葉を濁して、内容は秘密にしていたんです。

著者の塩田武士さん ©文藝春秋