ついには女性バスガイドが泣いてしまう事態に…旅行会社スタッフを困らせた「厄介なツアー客」の事例を紹介。現役添乗員かつ作家の梅村達氏の新刊『旅行業界ぶっちゃけ話 日雇い添乗員が見た懲りない人々』(清談社Publico)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

ベテランガイドが明かす「困ったツアー客」とは? 写真はイメージ ©getty

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 今から二つの事例の話をするが、これはいずれも仄聞である。その点を、まずはご了承願いたい。

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「セクハラ質問」が飛び交ういやな現場

 まず、一つ目は女性添乗員とバスガイドの被害である。そのツアーはある宅配業者の社員旅行である。集まったのはその会社のドライバーたちだ。そのツアーは一泊二日で栃木県の日光市にある鬼怒川温泉に泊まる。ドライバーは全員が男性で、若年層から中年までがそろっていた。

 30人ほどの男性たちの中に、ちょっぴり若い女性の添乗員と、中年のバスガイド。参加者のドライバーたちは酒を浴びて、いい気持ちにできあがっていた。

 すると、そのうちに男性たちの一人が添乗員に話しかけてきた。「年はいくつなの」「結婚はしてるの」「彼氏はいるの」など、あれやこれやと、ねちっこく聞いてきた。

 それらの質問は現代の基準からすると明らかにセクハラである。しかし、このツアーが実施された当時には、まだそういう概念はなかったという。

 質問だけのうちは、まだよかった。そのうちにビールのお代わりをする人に添乗員がビールを届ける。その行き帰りに身体にタッチする輩が現れたのだ。

 そんなことがあり、ビールを配るのは中年のガイドの役割となった。そんな中年にまで手を伸ばす者がいたという。アルコールというのは本当に怖いものだ。

 そうして、どうにかこうにか宿へと着いた。そうしたら添乗員、バスガイドともに、それぞれの会社に、その日の出来事を報告。2人ともに「次の日の仕事は絶対にイヤだ」「代わりをよこしてくれ」と涙ながらに訴えた。

 代わりをと言っても、そういうツアーの適任者などなかなかいない。それでも何とかその夜のうちに、かなりの年輩の添乗員とバスガイドが鬼怒川温泉までやってきた。2人はすでに引退して足を洗っていたのだが。

 次の日、その2人が客たちの前に現れる。年を重ねた添乗員とバスガイドの前でドライバーたちはお通夜のようであったという。それはそうだろうね。

 もっとも前日は半日、バスでいい気分。夜は宴会でガブ吞みと、相当にできあがってしまったが。

 次の一日くらいは年長者たちのゆったりしたサービスを受けてシーンとしているのもいいのではなかろうか。