「僕は、殺し合いに参加したくなかった」

 戦争に対して、彼には特異な、でも、どうしても譲れない持論がある。その姿勢を貫いたため、戦地では日々、死ぬほど殴られた。敵軍ではなく、自軍の兵士に。

「僕は、殺し合いに参加したくなかった。国家のためには、死にたくなかった。だから、気を失うまで容赦なく殴られました。気絶して、炎天下に転がっていたこともあります。

 ある日、上官がついに諦めたんです。彼らだって、毎日殴り続けるのは疲れますからねえ。

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 それに、僕のような人間を前線に出すわけにはいかないでしょ。邪魔になるだけですし、全体の士気も下がる。

 結局、後方に回されて、衛生兵みたいな役割を与えられるのですが、まあ、どこにいても戦地は危険でした。

 流れ弾に当たったこともあります。腋の下を貫通したんです。だからと言って、満足に薬もありませんから、寝ているしかない。

 そのうち傷が化膿して、ひどい熱が出ました。顔のまわりを蠅がぶんぶん飛んでいました。朦朧としていましたが、それはわかりました。

 だけど、僕は運がよかった。腋ですからね、被弾したのは。もう少しずれていたら、心臓直撃で即死だったと思います」