スタジアムの誰しもが固唾を飲んで見守り、そのひと蹴りで勝敗を決する——。サッカーのPKは極度のプレッシャーがかかる場面で行われるものです。

 ノルウェースポーツ科学学校のゲイル・ヨルデット博士は長年、PKという局面が選手の心理に及ぼす影響に注目し研究を続けてきました。ここではその内容をまとめた『なぜ超一流選手がPKを外すのか』から一部を抜粋します。(全3回の3回目/もっと読む

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遠藤保仁はただボールを見つめていた

 遠藤保仁は日本サッカー界のレジェンドだ。日本代表として150試合以上に出場し、歴代最多の出場回数を誇る。プロのサッカー選手としてプレーした試合は1100試合以上にのぼり、2024年に43歳で引退した。

遠藤保仁 ©JMPA

 2010年のワールドカップ南アフリカ大会で大役を務めた時には、PKの歴史に足跡を残した。ラウンド16で、日本がパラグアイと対戦した時のことだ。目立った動きもなくスコアレスのまま120分が経過し、試合はPK戦に持ち込まれた。今大会のトーナメント戦で初のPK戦だ。遠藤は日本チームの1番手キッカーだった。ペナルティスポットに着くと、彼は付近の芝生を数秒ほど足で踏み固めた。意図的な行動だったが、穏やかだった。それからボールを置いてGKにちらりと目をやると、(GKに顔を向けながら)後ろに下がった。助走を開始する場所まで下がると、彼はじっとボールを見つめた。静かにじっと立って、ただボールを見つめていたのだ。