2022年に短期大学を卒業し、幼稚園教諭二種免許を取得したことで話題となったタレントのつるの剛士さん(50)。同年には保育士試験にも合格し、目的を果たしたかに見えたのもつかの間、翌年には大学へ編入学。そして今春、通信教育課程で2年間学んだ東京未来大学を卒業した。
5児の父親としても知られる元・おバカタレントは、なぜ忙しい仕事や育児の合間を縫ってでも学び続けたのか。卒業したばかりの学び舎を舞台に、本人に話を聞いた。
移動中の新幹線やロケの宿泊先が“学校”になった

――つるのさんは短大を卒業し保育士試験に合格した翌年の2023年、東京未来大学の「こども心理学部認定心理士・生涯学習コース」に3年次編入学されました。大学に行こうと思った経緯からまずは聞かせてください。
つるの 幼稚園教諭二種免許と保育士資格を手にしたら、次の目標がなくなっちゃったんですよね。そうしたら東京未来大学に「こども心理学部」があると聞いて、思わずその名前に惹かれてしまって。といっても「こども」のほうにばかり意識が向いていたので、「心理学」は頭から抜け落ちていたんです。幼児教育や保育の勉強が中心かなと思って入学したら、もうゴリゴリの心理学だったので、最初は面食らいましたね。でも結局は、心理学を通して子どもってこうだよねとか、脳の発達はこうだよなって内容が繋がってくるんですけど。
――心理学にかなりのめり込んでいった、と。
つるの 特に深層心理学にハマっちゃったんです。というのも47歳のときにミッドライフクライシス※に陥って、奥さんに相談しながらもう涙がボロボロ止まらなくなっちゃったことがあったんですよ。僕って悩むようなキャラクターじゃなかったから、どうしてだろうとは思っていたんですけど、深層心理学を勉強していくなかで、そのワードが出てきて。学問になっているんだという気づきと同時に、救われた気もしたんですよね。
※40代や50代で自己の人生や将来などに不安や葛藤を感じる心理的危機のこと。中年危機とも。
――インスタグラムには「この2年間はひたすら本を読みあさる日々」とつづっていました。
つるの フロイト、アドラー、ユング……著名な心理学者の本はひととおり読みました。完全にどハマりしたのはユング。疑問に思っていることを全部、ユングが解いてくれたので、はっきり言ってユング教です(笑)。ユングが書いている本自体はメチャメチャ難しいんですよ。でも日本の心理学者である河合隼雄先生の『ユング心理学入門』をはじめ、丁寧に要約した本がいろいろあったので、分かりやすく頭に入ってきたんです。ミッドライフクライシスのことも書いていて、僕からしたらもう目から鱗ですよ。次から次へと興味が出てくるから、そのたびに本をインターネットで買っては読んで。おかげで、老眼が一気に進んじゃいました(笑)。

――東京未来大学の通信教育課程は「2セメスター(学期)8ターム(学習期間)制」を採用しています。これは1カ月ごとの各タームにつき2科目まで履修できて、「テキスト学習→中間試験→テキスト学習→単位修得試験」と短期集中で単位を修得していくという、珍しい形です。
つるの 次の目標を立てやすく集中的に学べるシステムでした。ある意味、頭のスポーツジムですね。このシステムでないと一人ではできなかったかもしれません。
ただ、短大のときはコロナ禍だったから時間もあって自宅で勉強できたんですけど、大学に入ってからは仕事と並行してなので、移動中の新幹線とか、ロケで行った宿泊先が僕のキャンパスになりましたね。もうね、ひたすらテキストとにらめっこですよ。だって2週間に1回、それも2科目で試験が来るんですから。
――話をうかがっているだけでもめまいがしてきます……。
つるの 冗談抜きで友達100人くらい失いました。「つるちゃん、飲みに行こうよ」と誘われても、「ごめん、試験が近づいててさ」って断らなきゃいけない。でも、2週間に1回試験がやってくるというテンポ感を分かってもらえないじゃないですか。そうやって断っているうちに次第に誘われなくなっちゃった(笑)。
子どもたちには相当響いたんじゃないかな
――学習された中で印象深い科目はありましたか。
つるの いろいろとありましたね。なかでも『親子関係の心理学』、『家族の心理学』は、自分の家族に当てはめながら勉強しましたし、あらためて自分の家族の絆を見つめ直す機会にもなりました。家族にこのように接したことが良かったんだなとか、逆にこういう考え方もあるんだな、とか。今まで(家庭のなかで)意識せずに自然とやってきたことが、すべて言語化されて、学問になっているんだなって驚きがありました。

――自分や家庭に当てはめながらの学びでもあったんですね。
つるの 40代の終わりごろになって(心理学に)自分が浸れている幸福感みたいなものもありましたね。まだ20歳前後だと、なかなか分からないと思うんですよ。家庭を持って、子どもができて、仕事をしていろんな出会いがあって、自分の人生にいっぱい“点”ができるじゃないですか。それが大学で心理学を学ぶことによって“線”になっていくような感覚を持ったんです。立体感が出てくるというんですかね。これがちょっと快感でもありました。
――年齢を重ねたからこそ、実感を伴った学びができた、と。
つるの 自分の心って何だろうとか、意識とか無意識って何だろうとか、いろんなものを考えさせてもらえた2年間でした。先ほど言ったミッドライフクライシスについても、番組で一緒になった同世代のプロデューサーさんに話をすると「自分も実はそうなんですよ」って言われたりして、みんな同じような悩みを抱えているんだなって。僕もせっかく学んだので、こういうことが書いてあったよとか伝えたりして、ちょっとでも助けになっていたらいいなって思ってます。
――つるのさんは5人のパパ。上のお子さんたちは海外留学に挑戦されていたり、昨年10月のインスタでは中3だった三女のいろさんが英検準一級にチャレンジしようと猛勉強していることについて触れていました。
つるの 子どもたちには相当響いたんじゃないかなって勝手に思っているんです。みんな勉強好きになったっていうか、子どもたちも自然とリビングに集まってみんなで一緒に勉強するようになりましたから。別に「勉強しようよ」なんて一言も言ってないんですよ(笑)。学びって自分にベクトルを向けているようで、自分が変わっていくと同時に子どもたちも変わっていくんですよね。短大、大学を通じてそのことにも気づけました。

――卒業時には短大時代を含めて「この5年間、何かに向かってがむしゃらに頑張る姿を子どもたちに見せることができたことが財産」と記されています。
つるの 昔、長男が中学受験をするときに、40歳過ぎだった僕も息子の塾に入って一緒に勉強していたんです。そしたら、おバカタレントでメシを食っていたのに、勉強がすっかり楽しくなっちゃった。頭が“ホワイトボード”だから吸収意欲がすごくて。だから勉強は子どもがきっかけだし、そう考えると全部子どもたちのおかげなんです。テストに合格したら家族のグループLINEに逐一報告していました。奥さんと子どもたちが「おめでとう!」ってメッセージくれるんですよ。
学びって大人にとっての“遊び”だと思うんです
――通信教育課程ですが、実技や実験が必要となる科目は対面授業だったそうですね。今年の1月・2月に集中的にやった、と。
つるの 大学のスケジュールを確認して、所属事務所にも1年前からそこの期間は丸々空けてもらっていました。朝から夜まで缶詰になるので、学校近くの学生寮も使わせてもらいましたね。
まとめて数日間で教えなきゃいけない先生も、もちろんついていく僕らも必死で。でも一つ屋根の下に、60代の人もいれば、鹿児島から来た人もいるし、年齢も地域も職種も違うみんなと一緒にスクーリングをやっていると、俺も頑張んなきゃって思えるんですよ。意欲的に、主体的にみなさん頑張っていましたから。
――新たなお友達も増えたんじゃないですか。
つるの グループLINEでみなさんとつながっていますよ。短大のときと同じで、仲間がいっぱい増えましたね。もといた友達は100人くらい減っちゃいましたけど、プラスマイナスはゼロかなって思っています(笑)。
――つるのさんのような“学びたい大人”も増えてきているのかもしれません。大人が大学で学ぶ意義についてどのように感じますか?
つるの 大学って、どこか本屋さんに似ているんですよね。ピンポイントでこの本を買おうと思っても、本屋さんに行くと気になる本にいっぱい出会えるじゃないですか。意外にこっちもいいぞ、あっちもいいぞってワクワクしちゃう。(大学にいると)興味と関心がいろいろと広がっていくんですよ。それが楽しくて。

それに、大学のような別の世界に飛び込んで学んでみることで、今までのキャリアで得た経験やスキルがいろんなところと結びついたり、いろんなアイデアが生まれたりするんですよね。就職のために大学に通う若者も多いんでしょうけど、大人ならもうそこは関係ないじゃないですか。だからこそ、より自分の興味に素直になれるんだと思うんです。
――たしかに、つるのさんの学びはご自身の興味に直結していますよね。
つるの 学ぶことって、大人にとっての“遊び”だと思うんです。あとは、やっぱり大人だから自分でお金を払わなきゃいけない。何より元を取らなきゃって思うし、骨の髄まで吸収しないともったいないんで。在学中は学割も思いっきり使わせてもらいましたよ(笑)。
――大学で学びを得ていくなかで、つるのさん自身変わったところはありますか?
つるの 人間というものは日々変わっていきますけど、僕の場合はより変われたんじゃないですかね。勉強するなかで “俺が初めて見つけたぜ”って思ったことがあっても、そんなのとんでもなくて、300年前、400年前、何なら2500年前に誰かが解いちゃったりしているんですよ。だから勉強すればするほど、自分が知らないことに気づかされて辛くなるし、何だか暗闇になっていくんです。普通は明るくなっていきそうなものなのに、逆に迷路の奥に入っていく感覚。暗闇のなかをさまよいながら、あれも知りたい、これも知りたいってなっていくんですよね。
――大学を卒業後、認定心理士資格も申請されたそうですね。それでもつるのさんの学びの欲は、どんどん溢れ出ているように感じます。
つるの 認定心理士資格は、頑張った一つの証として嬉しく思います。やってみることに間に合わないことなんてないなと改めて思いましたね。
でもここまで来たら、大学院でもっと深くまで勉強するっていうのもアリだなって思っちゃう。今、我が家には大学院のパンフレットが山積みされていて、奥さんが“また始まった~”みたいな目で僕のこと見てます(笑)。短大のときも大学のときも「つるちゃん、行きたいなら行っちゃえば」って背中を押してくれましたし、奥さんには本当に感謝しかない。でもまた興味がバーッて溢れちゃってんだよなあ、今。


