橘玲 SNSはアバターにやらせる

橘 玲 作家
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 あくまでも個人的な意見だが、「つながりすぎ」から逃れるもっとも効果的な方法は旅に出ることだ。なぜなら、脳はけっこう単純で、物理的な距離と心理的な距離を区別できないから。

 失恋旅行というのは、失われた恋を感傷的に思い返すことではなく、かつての恋人や一緒に過ごした場所と物理的な距離をとることで、つらい出来事の意味を客観的に評価しようとする試みだ。これを心理学では、「壁にとまったハエになれ」という。

橘玲氏

 あなたは自分を、壁にはりついている1匹のハエだと想像する。そのハエは、裏切りに怒り狂ったり、うちのめされて泣きわめいているあなたを冷静に観察している。ハエには(たぶん)感情はないから、そんなあなたを奇妙な生き物だと思い、なぜそんな大袈裟なことをするのか不思議に思うだろう。

 研究によるとこの方法は効果があるらしいが、誰もが簡単に1匹のハエになれるわけではない。ところが旅行(とりわけ海外への旅)は、いとも簡単に心理的な距離をつくり、人間関係のしがらみを客観化してくれるのだ。

 他者とつながりすぎていることで苦痛を感じるとしたら、その相手がストレスの原因になっているからだろう。だとすればより根本的な解決策は、人間関係を選択することによって、原因そのものを取り除くことだ。不愉快な相手と関わらなくてすむだけで、幸福度は劇的に上がる。

 幸福についての研究では、離婚や愛する者との死別よりも、毎日の通勤ラッシュのほうが長期的には幸福度を引き下げるという。終わってしまった出来事は時間とともに慣れることができるが、いつまでも続く小さな苦痛は回復の余裕を与えないので、よりこころを蝕(むしば)むのだ。

 そう考えれば、真っ先に「つながり」を絶つべきは、パワハラやセクハラをする上司、足を引っ張ることしか考えていない同僚、仕事ができないくせに文句ばかり多い部下などだろう。すべてのつながりを一律に切るのではなく、優先順位を決めるべきなのだ。

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source : 文藝春秋 2025年7月号

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