人間のタブーがさらりと描かれる
本書は気力体力とも充実した状態で読むことをおすすめしたい。それでも、途中で投げ出す人がいるかもしれない。
『コンビニ人間』が世界中で翻訳され読まれている村田沙耶香の最新作は、SFやディストピア小説の要素がありつつ、いまの日本に感じる不穏な空気が織り込まれ、読むと疲弊し、頭がくらくらする。

主人公は如月空子(そらこ)で、彼女の4、6歳から10代、20代、30代、40代、さらにその先が、時折、時間をさかのぼりつつ描かれる。
空子はふしぎな主人公だ。自我のようなものが皆無で、自分のことを〈空っぽの人間ロボット〉だと考えている。一見、謎めいているが謎はない。なにしろ〈空っぽ〉なのだから。感情はなく、周りの人間の語りを〈トレース〉し、相手の望む答えを返すことができる。
空子の〈キャラクター〉はくるくる変わる。家では〈そらちゃん〉と呼ばれているが、小学校では〈そらっち〉、クラスメートからいじめられている白藤さんには〈キサちゃん〉と呼ばれ、コミュニティによっては〈姫〉〈教祖〉〈おっさん〉と呼ばれている。
〈そらっち〉と〈キサちゃん〉はまだわかる。〈姫〉と〈教祖〉と〈おっさん〉はひとりの人格に共存しないように思うが、空子は無理なく使いこなす。その能力を仕事や自己実現にいかすわけでもなく、ただその場をやり過ごすためだけに使う。
自分の属するいくつかの世界に(1)(2)(3)…と順に番号をふり、使い分けている空子だが、あるとき、俯瞰的な、世界(99)という視点でものを見ることに気づく。空子はさらに、同僚の小早川音という女性が、自分と同じように他者に同調していることに気づく。
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