偉大な業績を残し、世を去った5名の人生を振り返る追悼コラム
★桶谷秀昭

文芸批評家の桶谷秀昭(おけたにひであき)は、長年にわたって昭和の文学や思想を掘り下げ、その時代の精神を語り続けた。
1992(平成4)年に『昭和精神史』を上梓する。当時、冷戦が終結するいっぽうで、日本のバブル経済が崩壊し、人びとには漂流の予感があった。この「昭和を生きた日本人の心の歴史」は立場の相違を超えて、多くの読者の心をつかみ、毎日出版文化賞を受賞する。
32(昭和7)年、東京に生まれる。敗戦時に父は戦地にいて生死が不明だった。桶谷は父の故郷の金沢にある旧制中学の2年生だったが、中退して農業に従事する。幸いにも父が復員したので、帰京して旧制中学の3年に編入し、翌年、東京商科大学(現・一橋大)予科を受験するが失敗。2年後に新制となった一橋大学に合格する。
ところが入学直後、経済通論の教授が「本気で勉強するなら、まず文学と哲学と語学をやりなさい」というのを聞いて感激する。3年のとき商学部から社会学部に転部し英文学のゼミに入るが、文学に深入りし5年かけて卒業した。東洋大学の講師を務めながら文芸批評を書くようになり、64年に『ジェイムズ・ジョイス』を刊行している。
78年刊の『ドストエフスキイ』で平林たい子文学賞を受賞。83年には『保田與重郎』を刊行して注目されたが、桶谷の将来を心配して手紙をくれる先輩もいた。日本浪曼派を率いた保田は、戦争を賛美したとされ、まだタブー視されていた。しかし、同作品は高い評価を受けて芸術選奨文部大臣賞を受賞、桶谷の代表作のひとつとなる。
92年刊の『昭和精神史』では、日本浪曼派も再論したが、マルクス主義、二・二六事件、大東亜戦争など数多くの論点を展開し、膨大な文学と思想の営みを描いた。「脱稿したとき、この作品を書くために自分は生きてきたのだという手応えを感じた」。
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