国家から「反社会的組織」と定義されている暴力団。その構成員や準構成員の家族、とりわけ子どもはどのような人生を過ごし、大人になっていくのか。『ヤクザの子』(石井 光太著、新潮社)から、16歳の風俗嬢とヤクザが不倫した末に生まれた赤塚未知のケースをお届けする。なお、登場する証言者やその関係者は、身に危険が及ぶことを考慮して全て仮名にしている。(全3回の3回目/1回目を読む2回目を読む

13歳の少女が母親と11年ぶりに再会したのは“密売所”だった ©AFLO

◆◆◆

 千葉市内の住宅地に建つごく普通のマンションが、稲川会の若い衆の部屋住み用の寮だった。2LDKの部屋には、数名の構成員が暮らしていたが、他にも様々な人間が出入りしていた。構成員たちが覚醒剤の密売をしていたため、密売人たちが仕入れに来たり、クスリ漬けにされた女性たちが、セックスと引き換えに無料で覚醒剤をもらいに来たりしていたのだ。

ADVERTISEMENT

 未知は「ヤバいところに来た」と思ったが、義母に虐待されたり、義兄にレイプされたりするよりはマシだった。慣れとは恐ろしいもので、1週間も経てば、個室から聞こえてくる女性の喘ぎ声や、床に転がる注射器を何とも思わなくなった。

 数週間が経ったある日、未知はマンションで仲間とともにシンナーを吸いながら幻覚を楽しんでいた。別の部屋からは、もう1時間以上も女性の大きな喘ぎ声が響いていた。覚醒剤をつかった乱交は毎日のことなので何とも思わなかったが、あまりに声が大きく耳障りだった。

「ったく、どこのバカ女だよ。ヒーヒーわめきやがって」

 未知はシンナーを手にして仲間たちとつぶやいていた。

 数十分して部屋のドアが開くと、半裸の女性が出て来た。20代の後半だろうか。髪はボサボサに乱れ、目の瞳孔が開き、全身から汗が噴き出している。