国家から「反社会的組織」と定義されている暴力団。その構成員や準構成員の家族、とりわけ子どもはどのような人生を過ごし、大人になっていくのか。『ヤクザの子』(石井 光太著、新潮社)から一部抜粋してお届けする。なお、登場する証言者やその関係者は、身に危険が及ぶことを考慮して全て仮名にしている。(全3回の1回目/2回目を読む3回目を読む

シングルマザーの母は、マンションで覚醒剤を売って生計を立てていた(画像はイメージです) ©SHU/イメージマート

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 東京の立川市は、住吉会の二次団体の縄張りだ。この組織は他にも、国立、昭島、福生、青梅、それに埼玉県の一部にまで大きな影響力を及ぼしている。

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 この地域の不良たちにとって、住吉会は身近な存在だ。不良グループから暴走族へ、そして暴力団へと反社会へのエスカレーターが用意されているし、そうならなくても夜の街で遊んでいて住吉会の構成員に遭わない日はなかった。挨拶を交わしていくうちに、いつしか組織の人間関係に染まり、男は利用され、女はその妻や愛人となっていく。

 松島一恵(かずえ)の両親もそうだった。父親の紀夫(のりお)は地元では有名な不良で、中学時代から傷害事件を何度も起こし、卒業後は地元の暴走族へ加入。18歳で引退してからは、先輩の誘いを受けて住吉会の傘下組織の盃を受けた。

 同級生だった母親の美奈子(みなこ)も、幼い頃から札付きの不良少女だった。小学生の頃にはシンナーに手を染め、中学に入って間もなく覚醒剤を覚えた。高校は卒業せず、暴走族の集会と覚醒剤に溺れる日々。17歳でトラック運転手と結婚したものの、喧嘩ばかりで2年で離婚。

 その後、美奈子は紀夫と知り合って再婚する。すでに住吉会の構成員となっていた紀夫は、美奈子とともに覚醒剤の密売を手がけた。

 1995年、22歳の2人の間に生まれた長女が一恵だった。だが、家族3人の暮らしは長くはつづかなかった。